おーい。
美春、お前。
ここで何やってんだよ。
あぁ、崇。
見てわかるよね。
お散歩だよ。
じゃなくて。
どうしてゴールしてこない。
俺ら、ずっと待ってたんだぞ。
俺ら?
待ってるって、どうして?
そんなの頼んでない。
みんなでスタートしたら、待つだろう。
ほら、学園に帰るぞ。
そっちじゃねえ。
来た道を戻ったほうが早いよ。
ね、あたし頭いい。
ほらほら、行こうよ。
今日はマラソン大会だ。
先生たちに会ってから、ゴールするんだ。
次は住宅街だから、こっち。
ねぇ、歩いていこうよ。
あたしつかれた。
もう走りたくない。
なんで。
あれだけやる気だったのに。
一体どうしたんだよ。
弓枝がさー。
一緒に行こうねって言ったくせに。
あたしを置いてった。
あぁ、それ聞いた。
同好会の用事があったんだと。
そのくらいで拗ねるなよ。
それだけじゃないよ。
後から来た人にも抜かれた。
がんばって走ってるのに。
ああ、うん。
とりあえず、沼地から離れよう。
水辺は寒い。
うん。
ここにいてもやることないし。
学園に戻ろう。歩いて。
だめ、走るの。
迎えに来たんだから、機嫌を直せよ。
弓枝が行くって言ったけど、俺が代表で。
うぅ、子ども扱いされてる?
崇はいいよね。
いつも走ってて楽しそう。
次は、俺に絡んできたな。
ああ、楽しいよ。
楽しめない理由が分からないな。
あたし、走るの遅いからさ。
弓枝に追いつけなくって。
足手まとい。
だからって歩かなくても。
走りたいから、参加したんじゃないのか。
置いてかないから、並んで走ろうや。
わかったよ。
その、迷惑かけてごめんね。
戻らなかったら、心配するよね。
美春は、走る姿勢がいいな。
腕の振り方も教科書どおりだ。
運動でもやってたのか。
これ?
昔は走るの好きだったんだよ。
でも、速い人には勝てないって気づいてやめた。
なんでやめる。
走るの楽しかったんだよな。
ちがうのか。
思い出せないよ。
そんな昔のこと。
楽しかったかどうか、わからないね。
美春は、走るのに向いてるよ。
喋りながら、俺についてきてる。
肺活量がすごい。鍛えてる感じする。
そうかな。
ああ、カラオケよく行くよ。
それでじゃないかな。
なるほど。
走るのに興味があるなら、続けてみればいいよ。
誰かと自分を比較する必要ないよね。
そうだね。
空気を思い切り吐くと、スッキリする。
目の前が明るくなった気がするよ。
そう、それそれ。
楽しいなら、やってみればいいんだ。
俺も、そんなに速くないけど走ってる。
うん、一緒に走って思った。
崇の走り、割りと普通だね。
ヒマさえあれば校庭走ってるのに。
なぁ、走って楽しいかって聞いたよな。
自分でやってみて、どう?
楽しい気分になってきたんじゃないか。
風が気持ちいいね。
走ってると、風の妖精が応援してくれるんだって。
子供の頃は信じてたな。
走れば風が起きるのは当たり前。
この時期は、寒いし冷たいな。
学園に戻ったら、まずはストーブの前だなー。
ゴールしたら、弓枝に文句言ってやろ。
それと、走る練習をするよ。
友だちについていけないって、寂しいもんね。
それはいい心がけ。
明日もこのコース、走るけど。
良かったら、一緒にどうかな。
美春 翔愛学園高等部2年生
崇のクラスメイト。一度拗ねると、やる気をなくしてしまう。
カラオケ好きで、肺活量には自信あり。